藤井翔悟コンサルティングFUJII SHOGO CONSULTING
DX・IT戦略7分で読める

SaaS乱立で膨らんだ運用コストを可視化する — 棚卸しの4ステップ

部門主導でSaaSが乱立し、契約全体のコストが見えない企業が増えている。ライセンス利用率の低さが生む無駄を、可視化・利用分析・統廃合・ガバナンス再設計の4ステップで刈り取る棚卸し実務の手順を解説する。

デジタル投資を加速させる中で、多くの企業が見落としてきた課題がある。部門ごとにSaaSを個別に契約した結果、組織全体で何をいくら使っているかを誰も把握できていないという状態だ。マーケティングが導入したMAツール、営業がそれぞれ入れたSFAのサードパーティ連携、人事が試験的に契約した研修プラットフォーム——それらが統合管理されないまま更新を重ねてきた企業は少なくない。SaaS乱立の問題が深刻なのは、コストの無駄だけでなく、セキュリティリスクの分散とデータ連携の断絶にも直結するからだ。

規模を数字で示すと、その深刻さが際立つ。SaaS管理プラットフォームのZyloが公開した「2026 SaaS Management Index」によれば、企業が購入したSaaSライセンスの約53%が実際には使われておらず、1社あたりの未使用ライセンスによる無駄は年間平均で約2000万ドルに達する。日本国内でもボクシルが2024年に実施した調査では、1社あたりのSaaS利用数が「11個以上」の企業の割合が前年比で5ポイント増加しており、導入数の拡大とその管理の追いつかなさが同時進行していることが示されている。

乱立が起きる構造的な原因は、調達の分散にある。IT部門を通さず各部門が個別に予算化・稟議承認することが一般化した結果、情報システム部門が把握していないシャドーIT的なSaaS契約が積み重なっていく。コロナ禍以降のリモートワーク対応で急速に導入されたコラボレーションツールや、AI活用の実験として始まったサブスクリプションが、正式な棚卸しもされないまま継続課金されているケースが典型だ。全体が見えないまま更新処理が続くことで、使われていないツールへの支出が固定費として組み込まれていく。

棚卸しの第一歩は、全量の可視化だ。経費精算データ・クレジットカード明細・IT資産台帳を横断的に突き合わせ、全ツールとその月次・年次費用を一つの台帳に集約する。同時に、部門ごとに「業務で使っているクラウドサービス」を自己申告してもらう全社アンケートを実施し、経費として処理されていない個人払いのSaaSを洗い出す。ここで求めるのは完全な精度ではなく、まず全体像の大枠をつかむことだ。台帳の整備なしには、次のステップへの選択肢が開かない。

第二ステップは、利用実態の分析だ。台帳に登録した各SaaSについて、契約ライセンス数・実際のアクティブユーザー数・直近90日のログイン頻度の3点を確認する。多くのSaaSはダッシュボードから利用統計を取得でき、シングルサインオン基盤を持つ企業ではそこからも補完できる。この分析で「契約ライセンス数に比べてアクティブユーザーが著しく少ないツール」を特定することが目的だ。当研究所の経験上、中堅企業でも30%前後のライセンスが有意な利用のないまま課金されているケースは珍しくない。

分析結果をもとに、第三ステップとして統廃合の意思決定を行う。判断の軸は「利用率」「代替可能性」「契約継続コスト」の3点だ。利用率が著しく低く、他ツールで代替できる機能のSaaSは解約または一時停止の対象とし、更新時期を見越して先手を打つ。機能が重複する複数ツールが同一業務領域に混在している場合は、どれか1つに集約することを原則とする。コスト削減だけでなく、「社員がどこに何があるか分からない」という情報断片化の問題も同時に解消できる。

一度整理しても、同じ乱立が再発しないようにするには、ガバナンスの再設計が不可欠だ。IT部門または情報システム担当への事前申請を義務付けるプロセスを導入し、一定金額以上のSaaS契約を稟議対象とする基準を設ける。台帳は半年ごとに棚卸しを組み込み、更新判断の手続きを標準化する。シャドーITを完全になくすことは現実的ではないが、把握できている状態とそうでない状態の差は、コスト管理上も情報セキュリティ上も非常に大きい。当研究所がヘルスケア経営の現場で磨いてきた方法論の核心は「まず可視化し、測れるものしか管理できない」という規律にある。

SaaS乱立の棚卸しは、経費削減の施策であると同時に、デジタル投資の構造を経営の視野に戻す作業でもある。全体像を持った上で、どのツールに追加投資すべきか、どの領域を統合すべきかを判断するための土台になる。当研究所の経営層ブリーフィング( https://fujii-consulting.jp/contact )では、実際の台帳設計から統廃合判断のフレームまで、御社のフェーズと規模に合わせた実装支援を提示している。

出典

  1. [1]Zylo「2026 SaaS Management Index」ライセンス利用率・無駄コスト実態(2025年)
  2. [2]ボクシル「SaaSの利用に関する調査」2024年版 — 1社あたり利用数の推移

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