藤井翔悟コンサルティングFUJII SHOGO CONSULTING
DX・IT戦略7分で読める

情報システム部門を「守り」から「攻め」に転換する道筋 — 経営が設計すべき3つの変数

日本企業のIT予算の約8割が既存システムの維持・運用に充てられ、戦略投資に回らない構造的問題がある。IT部門の役割を再定義し、経営価値に直結させるための権限・予算・ミッションの設計を解説する。

日本企業の情報システム部門の大半は、今も「守り」の役割に固定されている。JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)の調査によれば、国内企業のIT関連予算の約8割は既存システムの維持・運用(ラン・ザ・ビジネス)に充当されており、40%超の企業ではこの割合が9割を超える。残る予算でDXや新規デジタル投資を担う構造では、経営層が期待する「攻め」の機能を IT部門が果たすことは現実的に難しい。この状況を変えるには、ツールの刷新ではなく、経営が3つの変数を意図的に設計し直す必要がある。

IT部門が「守り」から抜け出せない原因は、技術力不足でも人材不足でもなく、構造的な固定化にある。第一は、レガシーシステムの保守負荷だ。老朽化したシステムが多いほど、少人数のIT部員が運用・障害対応・ベンダー調整に時間を取られ、新しい取り組みに割ける余力がなくなる。第二は、アウトソーシングによるブラックボックス化だ。外部ベンダーに業務を出し過ぎた結果、内部にノウハウが蓄積されず、自ら設計・判断できる力が失われる。第三は、ミッションの定義が「止めないこと」に固定されていることだ。この3点が重なると、IT部門は優秀な人材ほど守りの仕事に埋没し、変革をリードする余地が構造的に消える。

経営層の期待は明確に変化している。「システムを安定稼働させること」から「デジタル技術でビジネス価値をどう生み出すか」へのシフトだ。しかし現場のIT部門に届くのは、相変わらず「予算内で今のシステムを止めるな」という指令である。この乖離を放置した組織では、IT部門がいくら個人として優秀でも、部門機能として「攻め」を担うことはできない。経産省の「DXレポート」が指摘した「2025年の崖」は、技術的負債が積み上がるほどに変革コストが加速度的に増大するという警告だ。転換を先延ばしするほど、構造的硬直が増すことを経営が認識する必要がある。

転換の第一変数は、IT部門の「ミッション定義」を経営が書き直すことだ。「インフラを止めない」から「デジタルで事業成長を直接支援する」への再定義は、IT部門が自力では行えない。経営が主語となり、IT部門の評価指標を「コスト削減率・障害件数」ではなく「事業部門との共同施策数・新サービスの立ち上げ貢献・データ活用による売上増」に置き換える。この評価軸の変更だけで、部門内の優先行動は大きく変わる。評価指標が変わらないまま「もっと攻めて」と指示しても、担当者は守りの仕事を最優先し続ける。

第二変数は、IT部門への権限と予算の移譲設計だ。攻めの機能を担わせるなら、IT部門が主体的に動ける予算枠と意思決定権が必要になる。具体的には、ラン・ザ・ビジネス予算とバリューアップ(攻め)予算を分離し、後者について上限額まで事業部門と協議しながら执行できる権限を IT部長に委譲する。全社のIT予算が一括でIT部門に渡り、「守りか攻めか」の配分を経営が管理しない状態では、自然とラン・ザ・ビジネスが吸収する。予算の構造を変えることが、行動の構造を変える最短経路だ。

第三変数は、事業部門との連携モデルの設計だ。「攻め」の施策は、IT部門が単独で設計しても現場で機能しない。事業側の課題を把握した上でデジタル手段を設計し、現場で検証しながら改善を回す協働のサイクルが不可欠だ。当研究所がヘルスケア経営の現場で磨いてきた方法論の核心は、「4〜6週間のスプリントで仮説を実装し、数字で検証し、確認できた施策だけを横展開する」という規律にある。IT部門と事業部門が同じKPIを持ち、週次で進捗を共有する体制を整えることで、守りのIT部門を戦略的パートナーに転換できる。これは現場で検証済みの設計だ。

IT部門を「守り」から「攻め」に変えることは、IT組織の問題ではなく経営設計の問題だ。ミッションの再定義・予算権限の分離・事業部門との連携モデルの3つを経営が明示的に設計しない限り、IT部門は構造の引力によって守りに戻り続ける。転換を形にするには、まず自社のIT予算のうちバリューアップに充当されている比率を経営が把握し、ミッション定義と評価指標の見直しに着手することが現実的な第一歩だ。当研究所の経営層ブリーフィング( https://fujii-consulting.jp/contact )では、IT部門の現状診断と転換設計の具体的な手順を提示している。

出典

  1. [1]既存システムの運用・保守に割かれてしまう資金・人材 — DXレポート解説(IoT NEWS、2020年)
  2. [2]DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(経済産業省、2018年)

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